朝、静けさの中で目が覚めた。
9時にはおじさん(同級生のお父さん)が迎えにきてくれるので、間に合うように支度しなくてはならない。ロマを起こして昨日買ったミスタードーナツを食べる。
今日は玉置神社の例祭に連れて行ってもらう予定になっている。
年に1回あるお祭りで、小学生の頃は学校行事で連れて行ってもらった記憶がある。
全然知らなかったのだが玉置神社は「神に呼ばれた人した行けない神社」と言われているようだ。確かに都会からのアクセスは時間もかかるし、国道は酷道だし、雨がよく降る紀伊半島の環境がそうさせているのかもしれない。
標高1077m、玉置山の上に位置する玉置神社は全国でも珍しい悪魔祓いの御神徳があるらしい。それも村を離れてから知った、中学生までの私にとっては日常に溶け込みすぎて深く知ろうとは思わなかった。
私が通っていた中学校はこの例祭に合わせて夜間登山を行なっていた。
自由参加で夜中の0時くらいから登頂を始めて朝日を拝もう!という大筋だったが、登山口付近の学生の家、もしくは中学校に集合して夜中になるまで待機。
待機中に視聴覚室のスクリーンにプレステの画面を投影してグランツーリスモをやっている生徒もいれば、理科室で肝試しをやっている生徒もあり、なんでもありの待機時間。
さらに、登るときは先生が一緒にきてくれるが帰りは流れ解散だった記憶。
今思えば事故がなくて良かった、当時は色々自由度が高かった。
9時になりおじさんが迎えにきてくれた、助手席にはおばさんもいる。
グネグネの山道を登り続けること30分、もう少しで駐車場だが道の路肩に他府県ナンバーの車で溢れている。
「これ満車ちゃうか〜?」
なんと駐車場は満車で、停めるところがないのでおじさんは「また迎えに来るわ!」と帰ってしまった。
おばさんとロマと3人で神社への山道を歩く。
10月にしては暖かな日だが、流石に山の中はヒンヤリする。
ロマの後ろを歩いていくと紅葉し始めた山の景色が目下に広がる、秋だなあと思った次の瞬間、私が一番恐れている生物に出くわしてしまった。
まさかこの10月も下旬に、いると思ってなかったヤツが、ロマが歩いた小道の端にいるではないか!!
砂利道に紛れてクリーム色の蛇が道の端に横たわっていた。
声にならない叫びにおばさんが気がついてくれた。
「わーこの時期にまだいるんやね!」
蛇は威嚇姿勢でもなく、ほぼまっすぐに伸びた体でじっとしている。
マムシでもヤマカガシでもない、しかし怖い、怖いのだ。
蛇だって人間に会いたくて会ってるわけじゃないのはわかる、でも怖い。
FF7のミドガルズオルムに強制エンカウントされるくらい怖い。今ここにチョコボはいないし絶体絶命のピンチ。
と思ったらロマが砂利を蹴って、蛇を山に入れようと誘導するとスルリと山の茂みに入って行った。良い子…山へおかえり…
危機を乗り越え、ようやく本殿に辿り着くともう祭事は始まっていた。
本殿の周りは大勢の人で埋まっており、階段の下から眺めていた。
祭事が進み、玉串奉納の時に階段を登って上に辿り着いた。
「おじさん、久しぶり!」
「おおお!久しぶりやの。」
同級生のお父さんと20年ぶりの再会、お変わりなくてすぐにわかった。
同級生は大阪で元気に働いているらしい、話をするうちに同級生のお兄ちゃんにも会った。
私はこの2歳離れたお兄ちゃんと同じ高校に通っていて、1年だけ被っていたので25年ぶりに会ったがそんなに離れている気がしなかった。
2人とも「ていうか、そちらの人は…?」
とロマを見ている。
確かにこの場所でロマは目立つ、目立ちすぎるかもしれない。
「タンザニア出身、マサイ族のロマです。私の夫です。」
「グローバルやなあ!」
そんな話をしているうちに、また知っている顔に出会う。
「タタちゃん…?タタちゃんやろ???」
いくつか下の学年の女の子のお母さんが話しかけてくれた。
「Mのお母さんやよ〜」
Mちゃんとおんなじ顔をしたお母さん、中学でこの村を出た私とは数年のお付き合いだったのに覚えててくれた。
即興の同窓会みたいな空間が出来上がって面白かった。
みんなロマに「あれも持ってき」「これも持ってき」と御神酒やらみかんやら色々くれた。
「ありがとございます!」
菊正宗のパック酒から小さい泡盛の瓶まで色々両手に抱えている。
そろそろ例祭もクライマックスの餅まきに向けて動き始めたので、混む前に帰ることにした。
神代杉は相変わらず大きく、静謐さを湛えてそこに立っていた。
私がこの場所を離れていた数十年など、この木にとっては数秒のことなのかもしれない。
また来ます、と呟いて神社を後にした。
次回、懐かしい人。