牛のうんこを踏んでも何も思わなくなった金曜日の午後。
長引く乾季のせいで草が生えず、牛が食べる草がないので子牛と母牛以外はうちの村からかなり離れた場所に移動し放牧されている。
今日はその牛の様子を見に行った。
去年の今頃、ロマとババ(義父)と一緒にマーケットで買った子牛2頭もそこで放牧されているので久しぶりの対面だ。
キミサンとマチコサンと名付けられた2頭の牛、果たして元気に暮らしているのだろうか。
ロマの運転するバイクの後ろに揺られて走ること小一時間、オフロードの赤土を砂埃を撒き散らしながら、カーブミラーはもちろんないので見通しの悪いカーブは警笛を鳴らしながらいつ事故ってもおかしくない道なきみちを行く。
ようやくババと合流し、そこから牛のいる草原へ。
牛たちの放牧に村からババとムサフィリ、ジョシュアの3人が出向いている。
数ヶ月ぶりのムサフィリは髪の毛が伸びて、日に焼けてさらに黒くなっていた。
「ムサフィリ!スパイ!(挨拶)」
「アパ!」
元気そうに笑っている。ちなみにムサフィリはマサイ族ではないんだけれど、私はそのことに気が付かず1年以上過ごしていた。
ロマ「えぇ?だってムサフィリと村のみんなはスワヒリ語で話してるでしょ?」
そんなの気がつくわけない、私はマサイ語もスワヒリ語もごっちゃまぜで覚えてるんだから。
ムサフィリはmang'atiというマサイに近い部族らしい。(ちなみにタンザニアは140を超える部族で構成されている。)
広い草原には牛たちが食べる草が豊富にあって、ムシャムシャ草を食べている。
それにしても広い土地で、今回は手前の方の牧草を食べさせているが、奥の方の8ヘクタール分も今後放牧していくらしい。牛は丸々していて、艶もよさそうだ。
「キミサンとマチコサンどれかわかる?」
40頭くらいいる牛の中から黒毛の2頭を探す、キミサンはお腹の真ん中くらいが少しだけ白く、マチコサンは尻尾の先が少しだけ白い。
目を凝らして2頭を探すがなかなか見つからない、痺れを切らしたロマが教えてくれた。
去年買った時は小さくて細かった2頭が大きくなって、中くらいになっているではないか!
1年でこんなに立派になって…!
ロマはもっと牛を買って、いっぱい増やしてリッチになるんだと私を説得してくる。
「1年でこんなに立派になるんだから、もっと大きめの雄牛を買ってここで放牧したら6ヶ月後には2倍くらいの値段になるよ!銀行なんかよりずっと確実な投資だよ!」
銀行を信用していないロマはとにかく資産である牛を増やしたいのだ。
だからって私の貯金で牛を買うのは違うでしょ、バーの売上で買ってよ。
まず私は牛の顔を覚えるところからスタート、話はそれからだ。
とりあえず牛たちが健康で無事なことが見れて良かった。
いつ帰ってくるのかわからないけれど、キミサン、マチコサン元気にいっぱいご飯食べて太って帰っておいでね。