メイタタのしもべ日記

タンザニア出身マサイの夫と日本人妻の日常

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初めての診療所〜タンザニアの僻地医療〜

年が明けてすぐ、子どもを抱き上げたら腰が逝った。まさに魔女の一撃、ちょっと息ができなかった。

悶絶する私の横で、何も知らない2歳児はニコニコしていた。

 

「前も同じことして腰痛めたでしょ?!子どもはどんどん大きくなるし、子どもたちは永遠に疲れないんだから適当なとこで切り上げないと。」

とロマに怒られた。

おっしゃる通りすぎてぐうの音も出ない。

 

数日後、ロマと一緒に村に建築資材を買いに行った帰りにバイクで転倒。転倒っていってもほぼ止まってる状態で、横にふんわり倒れたので何処も怪我はなかった。

問題は起き上がる時に、私の足がバイクのマフラーに焼かれたことだ。

「アッツ!!!!」

右の脹脛にしっかり火傷を負った。

ロマがすぐに応急処置してくれて、家に帰った。

ママに事の顛末を話すと、私には心配を、ロマには「なんでそんな建築資材買いに行くのにタタ連れてったの?!!タタに怪我までさせて!!」

猛烈に怒っていた。

ママは雨が降っただけで私のことを心配するような人だ。

「雨に濡れて大丈夫?風邪引かない?ロマ!なんでタタにレインコート着せなかったの!」

火傷なんてもってのほかだ。

 

それから4日経って、水疱は破れてじゅくじゅくした傷口が痛かった。

この感じ、抗生剤飲んだ方がいいよなぁ〜衛生材料(ガーゼ)とか村で売ってるの見たことないし、とりあえずペットボトルの水で洗浄してアズノール塗っとくか…痛いけど、病院行くか迷う程度だった。

 

その日の夜、どうしても麺が食べたかった私は街で買ったプルダック麺を食べることにした。

めちゃめちゃ辛かったが、7000シリング(420円)払ったんだから食べないと!と元を取ろうと完食したのがいけなかった。

翌日、お腹を下して朝からトイレとお友達になった。つくづく、トイレを建てて良かったなぁと「不幸中の幸い」がピッタリ当てはまる状況だった。

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↑体調が万全の時にしか食べてはいけない。

 

なんだか身体が怠いし、火傷の傷が熱っぽい気もするし、下痢でお腹は痛いし、腰痛も治らないし。

とりあえず寝て治そう!

15時くらいに心配して見にきたママが病院に行くことを勧めてくれたが、この時はまだ平熱だったので寝たら治ると思っていた。

 

19時、建設中の我が家の作業が終わって大工さんが帰って行った。

ロマがベッドに来て、私の手を取る。

「熱いんだけど!」

熱を測ってみると38℃、1時間前は37℃だったのに急に上がってきた。

なんだか眠たくて怠い。

「病院行くよ!すぐ先生に診てもらうからね、大丈夫、すぐ良くなるよ。」

ママと伯父さんも来てくれて、病院に行く準備をしてくれた。

ベッドから起き上がって立つと、火傷した右足が痛くて体重をかけられなかった。

伯父さんが運転するバイクの後ろに毛布でぐるぐる巻にされた私を、後ろからロマが支える形で村の診療所を目指す。

うちの村で車を持っている人はいない。

移動手段はバイクしかない、病人が出た時は3人乗りスタイルが常識だ。

 

20分ほどで村の診療所に到着。

一番手前の部屋を開けて、シーツが1枚だけ敷かれた質素な診察台に横たわる。

ドクターを呼び出してる最中で私の方が先に到着したようだった。

部屋には水道がないので、桶に水が入っていて蛇口を捻ると出てくる。電球1個、薄暗い中で蚊がいっぱいいて、刺されたくないので毛布に包まってウトウトしていた。

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バイクの音がする、ドクターかな?と思ったら村から叔父さんが来てくれた。

「タタ、大丈夫か?もうすぐ医者くるから、すぐ良くなるからね。」

こんな御飯時に駆けつけてくれたのかと思うと、申し訳なく思った。

 

ドクターが来て、英語で症状を説明する。

ロマと叔父さんは「熱あるんだから点滴!」って点滴を推奨してくれた。

でも口から飲めるし今日も2Lくらい飲んで尿も4回出てます、普通の色です。ってドクターに言ったら、点滴はしなくて済んだ。

とにかく点滴したくなかったので、大丈夫を連呼。

火傷の傷を診て、デブリ(汚い組織を削ぎ落とす)と、鎮痛剤の投与と一応マラリアのチェックしましょうというところで落ち着いた。

まずは自動血圧計で血圧測定。

「100/50、低いね。」

「いつもこんな感じです。」

「アレルギーある?」

「アルコールです。」

「薬は?」

「無いです。」

いくつか問診して、処置が始まった。

 

生食で傷を洗って、デブリしていく。

薄暗い診察室で、伯父さんと叔父さんがスマホのライトで患部を照らしてくれている。

ロマはその後に塗る火傷用のクリームを探して薬局に行ってくれた。

なかなか帰ってこないなーと思ったら、村の薬局にはクリームなくて30分離れた村まで行って買ってきてくれた。

その間にマラリアチェック、指に針を突いて少量の血をチェッカーに入れ15分経つと結果がわかる。陰性だった。

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残る鎮痛剤、アンプルを持ってきて見せてくれた。注射かぁ(静注)と思っていたら様子が違った。

「横向いて」

これはお尻に筋肉注射される感じ??

物心ついてから、お尻に注射された事なかったのに、今ここで?お尻に?筋注??

何かを察したロマが

「すぐ楽になるから、ちょっとだけ。」

患者さんには慈悲なく打ちまくってきた筋注、痛いから嫌なんだよなぁ…しかもお尻。

 

一瞬で終わったが、やはり痛いものは痛い。

騒ぎ立てはしなかったが刺された瞬間、ちょっとお尻を引っ込めたよね。

それを見てドクターとロマが同時に

「ポレー(お気の毒に)」

41歳、夫に見守られながらお尻に筋注を受ける。

 

全ての治療が終わって、ドクターにお礼を言った。するとロマがこう言った。

「ドクターはいつもうちの家族を診てくれてるんだよ、ママも妹も。だから今日も電話して来てもらったんだ。」

「え、ドクター今日休みだったの?」

「そうだよ。」

「…どうして、休みなのに来てくださったんですか?」

「これが僕の仕事だし、責任だからね。」

It's my responsibility.

これザンジバルの病院でも聞いたこのセリフ。

ドクターの責任感でこの村の住民は夜でも医療を受けられる。

願わくば、ドクターに適正な給料と休みが付与されますように。

 

私の晩ごはんを探しに行ったロマが戻ってきた。

「さっきから電話鳴りっぱなしで、ビビ(おばあちゃん)も村のママ達も『タタ病気なんでしょ?容体は?今から行く』って言うから、なだめてたんだよ。バイクで来るにももう夜だし危ないから家に居てって言ったら『そんなもんに頼らんでも歩いていけるわ、タタが心配なのよ』って。ちゃんと治療受けて帰るから、家にいてくださいって説得したところ。バブ(おじいちゃん)も心配してた。」

歩いてきたら1時間はかかるのに。

ロマのスマホが鳴った。

「ババ(お父さん)からだよ。」

「タタ!大丈夫か?かわいそうに、マイドーター。しっかり治療して家に帰ってきて。」

村のみんなが心配してくれている。

 

唐突に理解した、家族なんだなぁ。

私が思っているより、ずっと、家族なんだと。

 

帰り道は叔父さんが伯父さんを載せて、私はロマと2人で帰路に着いた。

随分熱も下がって、鎮痛剤のおかげで痛みもない。

家に着くと、もう真夜中なのにママと妹が心配して見に来てくれた。

ロマが買ってくれた牛肉のスープを飲んで、ホッとしたら今日一日中寝ていたのに、とっても眠たくなってそのまま寝てしまった。

 

あれから3日、デブリした皮膚は上皮化しつつあり私は元気に暮らしています!