うちの村には犬が2匹いる。
そのうち1匹はオスで、私は勝手にポチと呼んでいる。
もう1匹はメスで、先月7匹の子犬を産んだママだ。オルクチ(マサイ語で犬)は誰の所有という事もなく、自由に村の中を歩いている。
ママは子犬を産んだ家の軒先にある薪の下に住んでいる。
7匹の子犬は薪の下でモゾモゾと動いている様子がうかがえる。
ママはガリガリで、いつもご飯を探して色んなお家をウロウロしているが、私たちが与えるご飯の量では7匹育てるエネルギーに到底追いつかずアバラが浮いている。
犬も猫も動物性タンパク質を求めてバッタを食べているくらいだ。
日本だったらドッグフード買ってあげるけど、ここでは人間だって食べるのに必死で犬や猫に余分にあげるご飯などない。
ママはずーっと家の前でご飯をもらえるのを待っている。
家の中にご飯があるのが分かっていても、一線は超えてこない、健気だ。
私のご飯を少し分けてタライに入れてあげると脇目も振らず食べ、食べ終えるとまた家の前で伏して待っている。
こうして私がご飯をあげるものだから、ママは私の後をついてくるようになった。
私がママに「ママ、タクエニャ(元気)?」など話しかける様子が、村のみんなにはとても面白く感じるらしい。
「ここでは犬や猫に話しかけないから、タタが話しかけてるのが新鮮なんだよ。」とロマは言う。
ちっとも吠えないし、噛まないし、待ても出来る。男の子達が口笛で呼べばすぐ来る、えらい。
そして今日、ママの家に行くと子ども達がみんな薪の下から出てきて、そこらかしこを綿毛みたいに転げ回っていた。
ガリガリのママとは対照的にコロコロ丸い子ども達は、ママが帰ってきた!と一目散にママのおっぱいに飛びついていく。
こんなに馴染んでいるママだが、うちの村の犬ではない。
近所の村の犬だが、うちで出産しちゃったもんだからうちに居着いてしまった。
いつか元の村に帰るのだろうか、子育てはもう少しかかりそうなので、しばらくはうちの前で私を待っているママが見られる。
今晩も晩ごはんが終わって歯磨きをしている私を見ているママ。
「また明日ね」
と言うと尻尾をパタパタと振って闇夜に消えていった。
エンギワリエシダイ。