日曜日にパサカ休暇が終わり、アナとモニカ(妹②③)を街まで連れて行ったロマは、3日間帰ってこなかった。
マサイ村の微弱な電波は私たちの交信を許さず、そうこうしているうちに私のギガは無くなり私からの通信手段は途絶えた。
ロマがどこで何をしているかわからないまま丸1日が過ぎた。
ママがロマからの電話をキャッチしたのは翌日、月曜の夜だった。
どうやら隣町にいるらしい。
ママが眉間に皺を寄せて話をしている、話終わってケータイを私に貸してくれた。
「ロマ、どこにいるの?」
「街にいるよ。昨日妹達を送って行って、帰りがけに薬買いに行ったらバイク盗まれたから帰れなかったんだよ。」
バイク盗まれた???
「え、今どうしてるの?」
「盗まれてすぐに近くにいた人が教えてくれてバイクタクシーで追いかけて、もう1人手伝ってくれた人もいて、割とすぐに見つけて追いかけた。向こうは3人で最後は森の中に逃げて行って、1人捕まえて警察に連れてきて今警察署にいるよ。」
相変わらず情報量多い。
「それで、バイクの鍵壊されて鍵ごと交換しなきゃいけないのと、追いかけるの手伝ってくれたバイクタクシーの運転手ともう1人にお金払うのにキャッシュ無いんだ。家にキャッシュある?」
「あるよ〜」
「今からバイクタクシー向かわせるから40万シル渡して欲しい。」
1時間ほどしてバイクタクシーのおっちゃんが現れて、ママと私でダブルチェックしたお金を渡すと闇夜に消えて行った。
無事に着いたかどうかもわからない、なぜなら家の周辺に電波がないから。
頼りが無いのは良い知らせだと思ってその日はスヤスヤ眠った。
翌日は大雨、止む気配はない。
こりゃ今日も帰ってこれないな。
隣町からうちまでの道路は舗装されていないオフロードで、大雨が降ると至る所に川が出来る。
そして雨が降ると、不安定な電波がさらに不安定さを増し、スマホはただの懐中電灯になっていた。
翌々日、夕方ようやくママがロマからの交信をキャッチ。ついに今日帰ってくるらしい。
夜の11時にバイクの音がして、3日ぶりにロマが帰ってきた。
「モモイちゃん!ただいま!」
「おかえり、無事で何より。」
その後のバイク泥棒の話を聞きながらご飯を食べた。
3人組の犯人のうち1人を確保して警察に連れて行ったら、警察にとっても感謝されたらしい。
なぜなら、犯罪が起きた時に被害者が怒り狂って加害者をボコボコにしたり病院送りになったりするらしく、ロマが数発ビンタをかましたくらいはとってもソフトな対応だったと褒めてもらったんだとか。
「あの日に限ってマサイの服じゃない普通の洋服着てたからよかったよ。マサイの格好だったらルング(棍棒)もナイフもあったから犯人危なかったよね。」
なんの巡り合わせか分からないが、ロマが加害者にならなくて良かった。
「捕まえた男性の家族が警察に来てね『お願いだから逮捕しないでください、お金は払います、どうか許してください。』って言うからタタと相談しようと思ってそのまま帰ってきた。だから彼はまだ警察の留置所に居るよ。」
どうやら犯人の家族はとても貧しい生活をしていて、犯人の男性はたった1人の男の子で家族の食い扶持を稼いでいたらしい。
家族の中に妊娠している女性が居るのだけれど、お腹が痛くて入院している。入院費を払えないから今回の犯行に誘われてバイクを盗んだらしい。
「この子が居なくなったらうちはもう終わりです、どうかお情けを。」
実際、妊娠している家族を見に病院に行ったら治療中だったと。
え?刑罰を被害者が決められるの???
タンザニアの刑法がどうなっているかは分からないが、最初の疑問はそれだった。
逃げた残り2人はおそらく常習犯で、鍵の壊し方から何から全てを知っていたという。
男性の身の上話しを聞いて、罪を憎んで人を恨まずとはこの事か。
「お家も大変だし、初犯ならもう家に戻してあげてもいいんじゃない?」
ロマは私の答えを聞いてこう言った。
「タタはそう言うだろうなと思ったけど、このバイクがどれだけ大切か考えると許せなくて。もしこの1人を捕まえ損ねたら、バイク二度と戻ってこなかったかもしれなかったんだ。」
2年前にロマにお願いされて買ったバイク。
「あの時、まだ結婚もしてなかった時期にタタは僕を信じてバイクを買ってくれた。妹が倒れて病院に連れて行く時も、ママを連れて街まで行く時も、何度もこのバイクがうちの家族を助けてくれたんだ。それは犯人の家族にも説明したよ。」
「このバイクがどれだけ大事かは知ってるよ。でもね、ロマが無事に帰ってきた事が一番なんだよ。もしバイクが盗まれて帰ってこなかったとして、また新しいのを買えばいいけど私の夫は1人だけなのよ。怪我がなくて本当によかった。」
バイクも鍵を取り替えて無事に戻って来た事だし、残りの犯人2人が捕まるかどうか分からないけれど、とにかくロマが無事に帰って来てよかった。
こんな小さな田舎町でも犯罪は起こる。
分かっていてもいざ自分の身に降りかからないと実感が持てないけれど、改めて気をつけようと思った。
特に私は良くも悪くもここでは目立つ、歩いているとおそらく視界に入る全員が私を見ている。
ロマがマサイ村の外で私を1人にしたがらない理由が分かった気がする。
犯罪に気をつけて楽しいタンザニアライフを送りたい。
雨上がりの幹線道路