ダルエスサラームまで行くには、マサイ村の隣町から出ている長距離バスに乗って行く。
6時間かかるこのバスは、ダルエスサラームの市街地から小一時間離れた場所にあるバス停に着くようになっている。
ダルエスサラームに旅立つ前日、ロマがバスチケットを買ってきてくれた。
1人17,000シリング(900円)、いつも乗るバス会社以外に違うバス会社が出来たらしい。
「明日はね、新しいバスに乗って行くんだよ〜」
当日来たバスはピカピカの新車だった。
しかも一番広い、運転手席のすぐ後ろの席。
これで6時間快適に過ごせる!!
運転席の隣には、チケットを売るお姉さんと、荷物の積み下ろしをする男性が数人バスのステップに座っていて乗ってくる人を案内している。
たまに、大荷物を持って道を歩いている人が手を振るとヒョイと乗せてあげたりする。
長距離バスだけど、色々融通がきくのか色んな人が乗ったり降りたりする。
席がない人もいて、真ん中の通路に座ったりもする。ハードモードだ。
子どもを連れているお母さんが入ってくると、席に座っている人が子どもを預かって膝の上に乗せたりする。
こういう所はとても寛容で、政府の子育て支援とかそんなの無いけれど、子どもをみんなで育てる意識が浸透している。
赤ちゃんが泣いても誰も文句を言わない、おばちゃんが「どれ、貸してみ」とあやして回る。
そうこうしているうちに休憩所に着いた。
このバスは1度しか休憩をとらない、しかも休憩時間が6-7分という短さなのでさっさとトイレに行ってサービスエリアでご飯を買わないと置いていかれる。
バスのドアが開いた途端みんな走っている。
なんとかムシカキ(串に刺さった焼いた肉)とソーセージ、コーラを手に入れてバスに戻る。
スワヒリ語のアナウンスしかないので、外国人観光客はなかなか難しいと思う。
出発したのだが、なかなか前に進まない。
前を見ると車が長蛇の列になって、少しずつ進んでいる。
だんだん進むに連れて、渋滞の原因が見えてきた。
反対車線に人だかりが出来ていて、片側交互通行になっているのだ。
左側車線の横に小高い丘があって、そこにも黒山の人だかりができている。
一体何が起こっているのか、私は窓の外を見た。
そこには何重にも出来た人垣の中心に、人が倒れていた。
顔にはジャケットが掛けられていて、路肩にはバイクが横倒しになり積荷が散乱している。
血溜まりの中に人が倒れているのを、みんなじっと見ていたのだ。
いつ事故が起こったのか分からないが、おそらくもう事切れているだろう。
日本なら救急車が来るが、ここでは救急車は有料で「金持ちの乗り物」と言われている。
たまたま大型バスに乗っていたので、上から状況が見えてしまった。
ご冥福を祈りながら、残された家族のことを思った。
バスは発進し目的地を目指す。
外の風景も変わり始め、バスは都市の郊外に差し掛かる。赤茶けた大地は徐々にアスファルトの匂いに変わり、遠くに高層ビルの影が見え始める。
「もうすぐダルエスサラームだよ」とロマが笑って言った。私たちは頷き合い、肩を並べて前を見つめた。
バスは夕陽に染まる都市の入り口に向かって、ゆっくりと滑り込んでいった。