メイタタのしもべ日記

タンザニアのマサイ村に嫁いだ日本人の日常

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兄の気持ち、妹の気持ち、小指の爪の喪失

学校に行くため、隣町で2人で住んでいるアナとモニカ(妹②③)が食料が尽きたというので会いに行ってきた。

 

町で小さな部屋を借りて、そこで自炊して2人で生活している。部屋代や電気代はババ(お義父さん)が出してくれて、その他食費や学校で必要な物はロマが払っている。

「学校どう?」

と聞くと、2人とも笑顔で

「楽しいよ」

と言ってくれるので良かった。

まだまだママが恋しい年代かと思ったが、2人で助け合ってやってるんだなぁ。

 

ここまでは良かった。

ロマが2人に聞く

「テストの結果出たやろ?持ってきて。」

2人の顔がこわばる。

前回のテスト、アナは評価「F」(落第)を連発して泣くまでロマに叱られたのだ。

今回もこの反応…良くは無いんだろうな。

 

持ってきた用紙をロマが1枚私に渡す。

モニカのテスト結果は目も当てられなかった。

評価はABCDFの5段階、ほぼ全ての項目をFで埋め尽くし、かろうじてD項目が2つだけあった。

右側におそらく授業態度とか生活面における評価があって、そこはAとB。偉い。

ロマが用紙を取り替える、今度はアナだ。

モニカと同じく、F以外にDがパラっとあるだけで焼け野原みたいな成績表だ。

バヤサーナの最終評価を受けている。

 

彼女達の名誉のために言っておくと、セカンダリースクールの授業は全て英語で行われる。

数学も化学も地理学も全部、英語が分からなければ設問の意味が分からないのだ。

私が彼女達に出会って2年、英語はさっぱりだ。

私が簡単な英単語を言っても「?」という感じで、ちっとも会話にはならない。

「テストの難しかった?」

Difficultも分からないので、このテスト結果は妥当である。

 

ロマが無言で出て行く。

あー怒ってる、怒ってるなあ。

数秒後、怒り狂ったロマが長い枝を持って凄い勢いで乗り込んできた。

悲鳴をあげて逃げる2人。

ロマがこんなに怒っているのを見るのは2回目だ。こうなっては私には止められない、けど黙って見ている訳にもいかないので後を追う。

案の定、妹が部屋に逃げ込んだドアを蹴破って、許しを乞う妹を枝でしばいている。

王蟲の目が真っ赤になって、王蟲の怒りは大地の怒り状態、私はナウシカではないので怒りを鎮めることはできない。良いとこいってテトくらいか。

ロマの腰にしがみついて邪魔するが、そんなの何の抵抗にもならない。全盛期のあゆが付けてたシッポくらい軽い。

妹がベッドマットの裏に逃げ込んでも容赦なく枝を打つ。

「ロマ、やめて!!叩いて賢くなるんか?!」

そんな言葉はもちろん届かず、外に逃げたアナを追いかけて出て行った。

 

ぐちゃぐちゃになった部屋に残ったモニカと私。モニカは泣きじゃくっている。

枝でしばかれるのは鞭で打たれるようなものだ。

ミミズ腫れになっている腕をさすって、落ち着くまで一緒にいた。

ロマが怒り狂いながら帰ってきて、

「モモイちゃん!!帰るよ!!」

とテスト結果とお金(生活費)をモニカに投げて出て行った。

 

どうしてロマがこんなに怒ったのか、理解できる。でも、妹達も生活しながら学校生活を送るのがどんなに大変かもわかる。

誰かがご飯を作ってくれるわけでもない。

日本みたいに今日は疲れたからお惣菜で済まそうとか、冷凍食品やカップ麺があるわけでもない。

料理をするとなれば炭で火を起こしてご飯を作り、食べた後の片付けだって水道がないので雨水を汲んできて使うしかない。

とにかく時間がかかるのだ。勉強する時間がどれほど確保できるだろう。

 

「モニカ、ロマはねあなた達のことが嫌いで叩いたんじゃないよ。愛しているから、腹が立ったんだと思う。それはわかってあげて欲しい。」

そう言って部屋を後にした。

 

妹2人が借りている部屋から1分のところに、ママムチュンガジが住んでいる。

彼女は敬虔なクリスチャンで、夫は教会の人だ。

妹達は幾度となく彼女にお世話になっている。

妹2人をいつも気遣ってくれているママ。

ロマはママムチュンガジと話をしていた。

「妹達には危機感がまるでない。あのテスト結果、何が一番腹が立ったってスワヒリ語すらFだった事だよ。」

タンザニア公用語スワヒリ語、妹達は普通にスワヒリ語を話しているのでこれは完全にテスト勉強していなかったという事になる。

「私も彼女たちには何度か英語も教えたんだけど、結局自分がやる気にならないと周りが言っても一緒なのよね。」

ママは英語も話すので私が居る時は分かるように英語で話してくれる。

 

「どうしたの?!」

ママが私の足を見る。

私も足を見る。

右の小指の爪が全部剥がれているではないか!

これが初めてではなく人生2回目。

1回目は生まれて初めて行ったグアムで、石柱にコンと当たってポロっと取れたのだ。22歳の時だった。

今回はどう考えてもロマを止める時に、ロマが私の足を踏んだんだろう。

「ごめん、本当にごめん。」

平謝りするロマ。

「わざとじゃ無いから良いよ。」

私はロマと結婚する時に一つだけ条件を出した。

【私に暴力振るったら、即離婚します。】

そう、私は動物じゃ無いので言ってくれれば理解します。

 

ママムチュンガジは看護師なので、家にある衛生材料で処置してくれた。

流石に消毒は痛かったが、処置が済めばそれほど痛みも感じなかった。

お礼を言って、ママの息子3人に今度来る時は風船持ってくるねと約束して別れた。

 

帰り道、ロマがポツポツと何であんなに怒ったか理由を教えてくれた。

「今までに何度、バブ(おじいちゃん)やババ(お父さん)を説得してきたか。2人とも妹達をさっさと結婚させろって、色んな人に紹介してさ。それを全部断ってきた、学校に行ってれば『まだ学生だから』ってちゃんとした理由になる。もちろん、学校でいろんな知識を得て欲しいのもあるけど、妹達には好きになった人と一緒になって欲しい。好きでも無い自分の親くらいの人と結婚させられて、そんな未来が良いなら好きにすればいいけど。」

 

もう視点が親、親より親。

兄の視点ではない。

バブのことは尊敬しているが、時々「うちには良い娘達がいる。」と色んな人に縁談を持ちかけるので、ロマが「うちの妹達はマーケットで売ってる動物じゃ無い」と怒っている。

なるほど、あんなに怒ったのは妹達の将来を案じての事だったのか。

 

家に帰ってからことの顛末をママに報告。

ママは怒るかと思ったら

「ロマ、よく言ってくれたわ。私がそこに居たら同じようにしていたと思う。」

ママも同意見で、せっかくお金払って隣町の学校に行かせてるのに勉強しないなら意味無いとの事。

親の心、子知らず。

私も高校生の時は家を離れて寮に住んで学校行かせてもらってたのに、成績はギリギリ赤点を回避するくらいだった。今なら分かる、親の気持ち。

 

今回の事で、妹達がどうか良い方向に向いてくれますように。私にできることは英語で話す機会を作るくらいだけど、何かのきっかけになってくれたらいいなと小指の絆創膏を見ながら思った。