村の小学生くらいの男の子でボンゲと呼ばれている子がいる。
マヌとエマの兄ちゃんだ。
本名は別にあって、ボンゲはあだ名。
スワヒリ語で「太っている」という意味だが、初めて会った時からボンゲはガリガリだ。
「どこがどうなってボンゲなん???」
「小さい頃は本当にボンゲだったんよ。」
とみんなが口を揃えて言う。
小さい頃に「チビ」と名付けた犬がめちゃくちゃデカくなっちゃったけど今更変えられないように、ボンゲもその類らしい。
ボンゲ!と呼ばれて普通に返事をしている。
ボンゲは普段学校に行っているし、休みの日は放牧で村に居ないことが多いので挨拶くらいであまり深く接したことがなかった。
いつもポーカーフェイスで、喜怒哀楽があまり表情に出ないタイプだと勝手に思っていた。
ある日、事件は起きた。
ママ達が「タタ、ボンゲ見なかった?」と焦った様子でボンゲを探している。
ローズ(妹①)やゲライ(ボンゲの姉)も「ボンゲー!」と呼びながら探しているが見つからない。
私もママ達の後ろにくっついて捜索に参加した。
いつも牛を放牧させる道を歩きながら、ボンゲが行きそうな場所を探す。といっても、私には皆目見当もつかないのでみんなの後を着いていく。
ローズの声がする。
「ボンゲ!!」
声のする方に行ってみると、そこにはボンゲがローズとママに支えられて立っていた。
何があったのか、みんながマサイ語で話していてわからないが、ボンゲは泣いていてただならぬ雰囲気がする。
村の入り口まで戻ると、バブ(おじいちゃん)とロマが待っていてボンゲを抱き抱えるように引き取って私の家に連れて帰った。
なんとなく今はそっとしておいた方が良さそうだと思い、私はそのまま散歩に出かけた。
しばらくして家に戻ると、ボンゲはもう家に帰って居なかった。
ロマに聞くと、ボンゲはお父さんにもお母さんにも嫌われていると思って何処かに行ってしまおうとしていたらしい。
ボンゲの両親が彼を愛していないわけない!と思うが、彼は5人兄妹の長男で色々思うことがあったのかもしれない。
バブとロマで「そんなことない、みんなボンゲの事を大切に思ってるよ。」と語りかけて、ロマがビスケットをあげる頃には元気になって帰って行ったようだ。
この一件があって以来、ボンゲの行動を注意して見るようになった。
するとボンゲも私によく話しかけてくれるようになった。何故だろう?私は直接的には何もしていないのに。
なんでかは分からないが、それからボンゲは私にサトウキビを分けてくれたり、私のスマホで撮った動画を一緒に見るようになった。
そうやって接するうちに、実はボンゲはよく笑うし面白い事が好きで、小さい妹や弟の面倒をよく見るお兄ちゃんなんだなと気がついた。
とはいえボンゲはまだまだ子ども、子ども時代を大いにエンジョイしてほしい。
今日もみんなでボールを追いかけて遊んでいるボンゲを見て、ゆっくり大人になりなさいよ〜と思うのだった。