メイタタのしもべ日記

タンザニアのマサイ村に嫁いだ日本人の日常

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ロマの緊急入院〜2日目〜

病棟に着くとすぐにスタッフが飛んできて、こちらですと案内してくれた。

病室前にはたくさんのスタッフがいて、部屋の中に入るとベッドサイドをウロウロするロマの姿があった。

「ロマ、ここがどこかわかる?私が誰だかわかる?」

一緒に歩きながら聞いてみるが、私の方をチラッと見た後はベッドサイドを行ったり来たりしている。

どうやらオーダーは入らないようだ。

 

担当らしき看護師さんがことの詳細を伝えてくれた。

1時間前から徘徊が始まって、指示が入らないので当直医を呼んだらしい。

当直医の先生が丁寧に状況を話してくれた。

「おそらく、環境の変化と炎症が引き起こしたせん妄だと思うのですが、他に何か心当たりはありますか?」

「そうですね、1点気掛かりなのは入院するまで毎日大量に高濃度のアルコールを摂取していました。もしかしたら、離脱症状も考えられます。」

「ありがとうございます、確かにちょうど離脱症状が出るタイミングではありますね。」

私たちが話をしている間もロマは一点を見つめながら部屋の中、窓際のベッドサイドを行ったり来たりしている。

ロマの長い足では3歩進んではターン、3歩、ターンを際限なく繰り返している。

病状の関係から、入院時にナースステーションの目の前にある個室に入れてもらったのが本当に功を奏したと思った。

当直医の先生と看護師さんにお礼を言って「私、落ち着くまでついてます。何かあったらナースコール押しますね。」と滞在許可証を記入してロマの歩行を見守った。

ふらつきはなく、しっかりした足取りなので転倒の危険は少ないと思い、ドア側のベッドサイドにパイプ椅子を置いて見守ること2時間。

午前2時、ようやくロマが歩みを止めて窓側にあるソファに腰を下ろした。

 

すかさず隣のソファに座り、話しかけてみた。

「ロマ、ここがどこかわかる?今日は何月何日?自分の名前言える?」

お決まりの見当識をチェックする質問を投げかけてみるも、ロマの目は空で少し私を見たと思ってもすぐに視線はどこかに漂ってしまう。意思の疎通は困難だ。

一点を見つめたかと思うと、何か見えるのかキョロキョロしたりと落ち着かない。

 

急に私の目を見て

「今まで本当にありがとう、感謝してるよ。」

そう言って左手の薬指から結婚指輪を外して私の手のひらに載せた。

「どうして?ロマがつけてていいんだよ。」

指輪をはめようとすると、首を横に振って私の手のひらごと指輪を包む。

結婚してから今日まで、ロマが結婚指輪を外すところは見たことがなかった。

 

この先、意識障害が治らなかったらどうしよう。

もし、重篤な障害が残ったらどうしよう。

もし、命に関わるようなことがあったら、タンザニアにいる家族にどう伝えればいいんだろう。

そして私はどうやって生きていけばいいんだろう。

ロマの結婚指輪を見つめながら、どんどん弱気になってしまった。

でも本人が一番しんどいのに私が泣くのは違うなあと思い、グッと堪えてロマの様子を観察した。

明らかに何か見えているような目の動き、時々微かに動く唇、彼が今体験している世界はどんな物なのか私も一緒に見えたらいいのに。

5時くらいになり、私がウトウトと船を漕ぎ出すと、ロマが肩に布団をかけてくれた。

6時、少しずつ発語が見られるが、やはり混乱している。

「あそこになんか書いてあるけど読めない、なんて書いてるの?」

真っ白な壁を指さして眉間に皺を寄せている。

英語でもスワヒリ語でもマサイ語でもないらしい。

 

6時半、看護師さんが朝の検温に来てくれた。

自発的な発語が増え、看護師さんに笑顔で挨拶できるようになった。

ただ、壁に何か見えているのは変わらずで「壁に文字が書いてあるから翻訳してほしい。」と仕切りに言う。

「ロマには見えてるんだね、私には見えないなあ。」

「タタには見えないの?おかしいなあ?」

このやりとりを見ていた看護師さんが

「奥さん、看護師ですよね?」

「わかりました?」

「昨日の当直医とのやりとり見てたら、ああ看護師さんなんだなってすぐわかりました。奥さん全然寝てないんじゃないですか?大丈夫ですか?」

「ちょっとウトウトしました、大丈夫です。」

「旦那さん、優しい人なんですね。昨晩、静止が効かない状態になっても叩いたり暴れたりせず、奥さんにも危害を加えず。ああ、普段は穏やかな人なんだろうなって思いました。」

そう言って看護師さんは退室していった。

 

7時、ようやくシャキッとしてきて目の色も変わり、布団を畳んで着替えたいと言うロマ。

「昨夜のこと、覚えてる?ずっと歩いてたんだよ。」

「うん、悪夢を見ていたような気がする。お父さんの言葉が耳に入って、それで指輪を外したのは覚えてる。」

ロマに指輪を返し、しばらく様子を見てみる。

ベッドに横になってスマホを触り始めたが、どうも思い通りに動かせない様子。

Bluetoothを開いてみたり、イヤホンを取り出して自分の口に接続してみたりと失行がみられる。

こっちに繋ぐんじゃない?と誘導するとすんなり受け入れてくれた。

お腹がすいた、シャワー浴びたい、歩きに行きたいと自己の欲求は表出できるようになり、8時半ごろから眠り始めた。

一晩中起きていたのだから疲れたのだろう、ゆっくり休んでほしい。

 

10時、母にことの経緯を説明していたので面会を交代しにきてくれた。

ロマも母のことを認識しており、随分といつもに近い状態に戻ってきたのでほっとした。

洗濯物を持って病院を後にする、太陽の光が眩しい。久しぶりに夜勤をした感覚だ。

帰って洗濯して、私もシャワーを浴びて少しご飯を食べて14時に病院に戻り、母と交代した頃にはロマは昼食も食べずに眠り続けていた。

結局その後夕食も食べずに眠り続け、波乱の入院2日目は幕を閉じたのであった。