出先から村に帰ってくるとヤギが子どもを産んでいた。
2匹のヤギが同日に出産、2匹の小ヤギが「めぇぇぇぇ」と鳴きながら駆け回っている。
雨が降ってきたので、生まれたばかりの子ヤギを家の中に入れるため捕まえて運ぶのだが、セカンドバッグを持つかのように子ヤギを運んでいく。
子ヤギは大人しく小脇に抱えられて無事、家の中に収容された。
マサイ村に来て、動物と一緒に暮らすことを経験している。
牛、ヤギ、羊、鶏、犬、猫、ロバ。
こんなにたくさんの動物と触れ合う事はなかったし、牛やヤギに触ったのは初めてだった。
ロバは乾季のシーズンに水を運ぶために飼われている。
ロマ曰はく「水を運ぶ以外は仕事がないから、用事がないときは放っておく人が多い」
今は雨季のシーズンで、水を運ぶ必要があまりないので近所のロバはほぼ野良ロバと化している。
近所のロバがロマのお父さんの畑を荒らしてしまって、父大激怒。
お父さんがあんなに大きな声で怒っているのを初めて見た。
人間の都合で振り回される野良ロバも気の毒だ。
庭でゴザを敷いて横になっていると、誰かが私の傍に寄りかかってくる。
誰だろうと思ったらヤギだった。
ヤギかあ…と二度寝出来るくらいには慣れてきた。
ウトウトしていると遠くからピーピーとひよこの鳴き声が聞こえる。
あれ?この前生まれて大きくなったのに、声が戻ってる?
目を開けると10匹のひよこの大群が母鳥を先頭に走り回っている。
ママ「さっき生まれたのよ。」
毎日なにかが生まれるマサイ村。
その日の夕方、ロバが子供を産んだ。
新たな命にこんなに触れ合うことがなかった私は驚きの連続だが、ここで暮らしている家族にとっては当たり前の日常なのだ。
そしてみんながみんな無事に生まれて大きくなるわけではないことも知っている。
死産もあるし、病気にかかって亡くなる命もある。
牛の出産が長引いて「中の子どもはもうだめかもしれない」という時に、ロマやお父さん、叔父さんたちが手を尽くして難産の末に生まれた子牛。
生まれてすぐに呼吸が弱かったので、迷わず人工呼吸をするマサイの青年を見て生命の尊さを再確認した。
仔牛は見事息を吹き返し、自分の足でしっかりと母牛の隣に立った。
いつかこの牛が大きくなって売られても、食べられても、今日のこの日のことを忘れないだろう。
私たちは生命とともに生き、時折その命をいただくこともある。
そんな当たり前のことを、この村は私に教えてくれる。