メイタタのしもべ日記

タンザニア出身マサイの夫と日本人妻の日常

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入院生活

入院していると、楽しいことなどほとんどない。

 

痛い処置に、つらい副作用、家族にも会えないし制約が多い生活。病棟看護師をしているときの看護目標は「一処置、一手洗い」ならぬ「一処置、一笑い」を目指していた。

患者さんがふふっと笑える時間が、1日のうち1回くらいあったらいいな~というほんのりとしたものだったが、そのためには自分がいつも笑顔で機嫌よく居ようと決めていた。(もちろんいつもそうでは居られなかったけれど)

 

ちょうど1年前、自分の手術のために当時勤務していた病院に入院することとなった。しかも自分の働いていた病棟に入院。

その日は夜勤を終え、日勤に申し送りをして一旦帰宅。

昼から入院患者として病棟に舞い戻った。ごく数人のスタッフにしか入院のことを伝えていなかったので、「あれ?忘れ物ですか?」と日勤スタッフに声をかけられた。

「いや、明日手術するねん。よろしくお願いします。」

「えー!あ!ネームバンドしてるーーー!?」

 

初めての全身麻酔を伴う手術と夜勤明けのテンションでワクワクを隠せない私。

入院当日の担当は1年生の子だった。

「タタさん、オペオリエンテーションいりますか?」

「したかったら来てくれてもいいけど、忙しいやろ?知ってるからいいで。はい、看護計画と入院診療計画書サイン済です。」

「患者さんなんだから、仕事しないで休んでてくださいね。」

 

病室に行くと、夜勤で担当していた部屋だった。同室3人の患者さんにごあいさつ。

「今日から入院します、よろしくお願いします。」

「さっきまで働いてたのに、今から入院~?忙しいなあ。夜勤で疲れたやろ、寝とき~。」

「明日手術するん、がんばろなあ。」

「私もおんなじ手術したの、よろしくね。」

 

患者さんに励まされ、入院初日は楽しく過ごして病院食も美味しく頂いた。夜もこれ以上ないくらい寝た。

翌日、予定通り手術室に向かう途中、担当のスタッフに「あ、そういえば塩酸コカイン金庫から持ってきたっけ?」「忘れました!!!!戻ります!」なんてプチハプニングを経て手術室入室。

 

主治医の先生に挨拶して手術台へ上がった。

これまで何回も患者さんにしてきた事を自分が経験する。

人生初の全身麻酔に興奮して心拍数早いし、ここの手術室の構造はどうなってるんだろうとキョロキョロしたりしているうちに麻酔科の先生が「酸素吸っててねー」とマスクを当てて、研修医の先生が前腕で点滴ルートを確保。いざプロポフォール(麻酔薬)が流れてきた…

 

「タタさーん、終わったよー」

麻酔科の先生に呼びかけられて目が覚めた。

(手術した?術野も喉も痛くない…?)

覚醒後のことは覚えているが、次のシーンはリカバリー室でどうやって移動したのかは全く覚えていなかった。

 

その後、病棟に戻り主治医の先生が面会に来てくれて「どこも痛く無いんですけど?!」「おーそれは良かった!」と無事に手術が終わった事を喜んだ。隣のベッドの患者さんも「良かったなぁ」と覗きにきてくれた。

 

術後、ベッドの中から同僚たちの働きを見ていた。急性期の混合病棟で手術があって化学療法もあって、カテも透析も入り乱れ入退院の人の出入りも激しくて、とにかくビックリ箱みたいに忙しい病棟で丁寧に患者さんと向き合っていた。もちろん、全部が完璧ではないけれどより良くしようという気持ちは十分に見てとれた。

同僚だから褒めている訳ではなく、一患者の視点でこの病棟に入院できて良かったなと思った。

 

そして、自分だって治療でしんどいはずの患者さんたち。私の事を気にかけて励ましてくれて、いつも患者さんから向けられる笑顔や「ありがとう」の言葉に助けられて6年間病棟で勤務できた事を嬉しく思う。

 

次にまた働く場所でも、一処置一笑いを目指して今日もおもしろいネタを探すのであった。