事故から1週間が経った昼下がり、ロマがひょっこり帰ってきた。
彼が帰ってきた時、私は朝の水泳と洗濯を終えて爆睡していたので感動の再会とは程遠かった。
「ただいま」
「…んあ?!」
ねむたい目を擦り、のび太くんみたいな3 3の目をロマに向ける。彼の足の傷も痂皮化がすすみ、痛みもずいぶんマシになったようだ。
傷のパッキングは全て取り除かれ、抗生剤軟膏を処方されていた。
思えばすごい確率で事故に遭ったのだ、元気になって良かったと同時にまた予定通りに事は進まないという事を実感する事になる。
「明後日、マサイ村行くから。」
おーい、それもっと先の予定やったやーん。
「事故でお母さん心配してるから。それと今うちの牛戻ってきてるから!」
お母さん心配しているのは分かる。牛は会っても会わんでもどっちでも良い。
しかしロマの中では牛を私に見せることは優先事項のようだ。マサイが牛にかける情熱はすごい。
彼らにとって牛は財産でありパートナーであり尊敬すべき生き物なのだ。結婚する時に花嫁に牛を献上する習慣は今も健在だ。
「日本では結婚する時何を持って行くの?牛?」
「地域性はあると思うけど、牛は要らないよ。」
「要らないの!じゃあ何がいるの?」
「うーん、指輪とかじゃない?3ヶ月分の給料って言われてるけど。」
「オー…。」
ちなみにマサイ達は自分家の牛じゃなくても、牛を見れば何かしらのリアクションを取る。見たり、口笛吹いたり、写真を撮ったり。構わず素通りするのは難しいようだ。
今いる宿には2週間先の滞在までお金を払ってしまっているがマサイ村に先に行く事になった。予定通りにはいかない、それが旅。
ザンジバルから本島に渡るにはフェリーに乗るが、百発百中で船酔いする私は今から少し憂鬱だ。アネロンと当日の私に全てを賭けるわ!
夕方、浜辺を一緒に散歩した。
いつもはめちゃくちゃ話しかけられるが、ロマと一緒だと誰にも話しかけられない。快適な時間を過ごすことが出来た。この平穏が長く続くことを願ってやまない。