ロマがタンザニアへ帰ってしまった。
唐突な事件のせいで、また私たちは離れ離れの生活を余儀なくされている。
まったく、結婚前も遠距離でやっと一緒にいられると思ったのに。結婚してもなかなか一緒にいられない夫婦である。
ことの発端はロマにかかってきた電話だった。
夜に電話がかかってきたから、ママか友達だと思っていたら声のトーンがいつもと違う。何かよからぬことを感じる。
電話を切ったロマは私をまっすぐに見て「タンザニアに帰らなくちゃ。」と言った。
一言で言えば、不幸があったので帰らざるを得なくなった。ロマが帰らなければ事が進まないようだ。
時刻は20時、スーツケースを買いに近くのショッピングモールに駆け込んだ。
売り場に置いてある一番大きそうなスーツケースを2個、ロマが青で私が赤を購入した。
係の人がスーツケースの鍵の開閉を確認して、布で汚れを綺麗に拭いてくれている時に、赤いスーツケースに傷があるからと在庫を見てくれたが展示品しかなかった。
私は気にしないと言ったが、最初から傷がついてるのは気の毒だからと上司に掛け合って割引してくれた。
その様子をロマが見ていて「日本人って本当に親切だよね、彼女はアメージングだねえ!」と感心していた。彼女にお礼を告げて、売り場を後にした時すでに閉店の音楽が鳴っていた。
無事スーツケースを持って帰る事ができ、パッキングに勤しんだ。
私はまだ日本でやらなければならない手続きが残っているので、今回はロマだけ先に帰ってもらうことにした。
タンザニアまでの直行便はない。
なるべく簡単で、乗り継ぎも最小限のルートに設定して航空券を買った。
2回目のフライトにして一人で帰るロマを不憫にも思ったが、英語が話せるのでなんとかなるだろう。
空港まで送り届けて、保安検査場前でお別れを告げる。
「すぐ会えるよ。」
そう言って、ロマは旅立って行った。
いつだって空港で別れるのは辛いものだ。
ロマが帰国して一週間、彼と連絡が取れたのは2回だけだ。
村には電気もなければ電波もないので、通常運転なのだがやはり寂しい。
ここのところ、日本はグッと気温も下がって寒くなった。一人で夕暮れの道を歩きながら、ロマも同じ空の下で今頃どうしているかなと考えてみる。
早くタンザニアに帰れますように。