京都から6時間、ようやく帰ってきた実家は茂みの中にあった。
人が住まなくなって数年もすれば、あの山の中にポツンと建っている家はすごい速さで自然に還っていく。
私の背丈より高い雑草や、蔓をかき分けて家の中に入ると、家の中は昨日まで人がいたかのような雰囲気がした。
私は中学卒業までこの家で過ごした。
家からの眺望は、見慣れたダムと山と狭い空。
一見変わらないようで、よく見ると家の前の山の崩落部分に青々と草木が茂っているのが見える。小さい頃は地肌が剥き出しになっていたのに、何十年も離れていたことを思わせる。
長い道のりを帰ってきた理由は墓参り。
私の父が眠る墓地に、10年ぶりくらいに足を運んだ。この墓地は山の中にポツンとあって、ちょっとお参りに行くにはハードルが高すぎる。
たまに村に帰ってきても、お墓まで一人で行くのは随分と気合が必要になる。
ロマが一緒にいてくれるので、小雨の降るなかお墓を目指して小登山を開始した。
落ち葉だらけの山道を、滑らないようにゆっくり進む。
毎シーズンマムシが居た道を通る時はドキドキしたが、杞憂に終わった。
歩きながら、道がやけに綺麗に掃除されていることに気がついた。誰も通らない山道はすぐに落ち葉が覆い尽くして獣道になってしまうのに、ちゃんと道が見えている。
誰か掃除に来てくれたのか?
地元の人でもここに墓地があるなんて知らない人も多いのに、誰が綺麗にしてくれたんだろう?
息が上がって、ゼーゼー言いながら登り切った先に祖父の墓石が見えてきた。
入り口に近い方が最近のお墓で、奥に行くほど古いお墓になる。古すぎて文字が読めなくなった墓石も奥に並んでいて、手前の新しい墓石は祖父、父、祖母の順に並んでいる。
やはり誰かお参りに来てくれたようで、新しい榊が供えられていた。
「ロマ、これがお父さんのお墓だよ。こっちがおじいちゃん、こっちはおばあちゃん。」
ロマはじーっとお墓を見てこう言った。
「タタ連れてきてくれてありがとう。初めましてお父さん。ロマといいます、優しくて美しい妻を育ててくれてありがとうございます。よろしくお願いします。」
マサイは最近でこそお墓を作るようになったらしいが、おじいちゃんの世代くらいまでは人が亡くなるとその人を家に残して、集落ごと引越して遠くに移り住んでいた。
遊牧民だったマサイにとっては、それは自然な弔い方だったのかもしれない。
ロマは整然と並んだ墓石を見て「この中の一人でも欠けていたら、タタはこの世に生まれなかったんだね。ご先祖様に感謝しなきゃいけない。」と優しい顔で私の手を撫でた。
よくおばあちゃんが口にしていた言葉を、ロマがそっくりそのまま言ったことにびっくりした私はロマを仰ぎ見た。
ロマはまっすぐな目で父の墓石を見ている。
父が生きていて、ロマと会ったらどんな反応をするんだろう?それは叶わない夢だけれど、ロマと一緒に父の墓前に来られたことは、私にとってとても意味のあることだった。
しとしとと雨が降り、木々の隙間から差し込むわずかな光が反射して私たちの周りはとても静かで温かい空気に包まれていた。
「また来るね。」
そう言って、登って来た山道を引き返した。

次回:懐かしい再会