マサイ村の朝は早い。
みんな5時くらいから起きて、牛の乳を搾っている。
ニワトリが鳴き、山羊が鳴き、牛が鳴く自然の目覚まし。もれなく自動スヌーズ機能搭載なのでずーっと鳴いている。
私はそんな些細な音ではもちろん起きられず、最大限努力して7時に眠い目を擦りながら起床。しかし、隣でロマはまだ爆睡している。
外に出ると、ちびっ子たちが一斉に集まってきて挨拶をしてくれる。
「スパイ!」
「アパ」
年少者は年長者に対して頭を下げ、頭に手を乗せてもらうのがマサイ流挨拶なのだ。
私もおじいちゃんやおばあちゃんに挨拶する時は頭を下げて、手を乗せてもらう。
なんだかいい子いい子されているような気持ち。
とっくに乳搾りを終えて、チャイを作ってくれるママと妹たち。起きたての私にコップ一杯の水をくれて、そのお水で顔を洗いようやく目が覚めてくる。
洗面所などないので、庭先の好きな場所で顔を洗う。どんな容貌になっているか鏡がないので知る由もない。
母はもちろんとっくに目覚めていて、マサイ村の朝の様子を興味深く見つめている。
朝ごはんにパンとチャイをいただく頃、ようやくロマがやってきた。
3人で朝ごはんを食べる、最初で最後のマサイ村の食卓。
ロマはタクシーを探すため、各所に電話で交渉を開始。私たちがダルエスサラームに戻るために近隣の町のバスターミナルまでタクシーを手配しなければならない。
そして、そのタイムリミットはもう1時間しか残っていなかった。
「ポレポレ」スワヒリ語でゆっくり、という意味の言葉。タンザニアに来て何度この言葉を聞いたことか。
急がなきゃならない時はどうしているのだろう…?
朝9時半のバスに間に合うか否かで日本に帰れるかどうかが変わってくる大事な瀬戸際。
なんとかタクシーを呼ぶことに成功し、あとは行くだけ!こっからが長いのがマサイ村。
まず各家庭を回ってお別れの挨拶をする、そして最後に長老の結構長いお話。
心の中「タクシー来てる!待ってる、おじいちゃん巻きでお願いします!」
最後に私たちと家族と長老が家の中で手を繋ぎ、輪になって旅の安全を祈願する祈りを捧げる。マサイ語で口々に祈っているので、内容はわからないが日本に行くとなるといつもの1.5倍くらい長い。こんなに旅の安全を祈願してもらうこともそうそうないが、今回は時間もなくてハラハラした。
無事に祈りを捧げ、ママたちに見送られてタクシーに乗る。
毎回、ママと一番上のお姉ちゃん(ローズ)は涙ぐんでいるけれど、下のクレイジーシスターズは笑顔で「ねータタもう帰っちゃうの?次はいつくるの?いつになったらずっといてくれるのー?!」と私にまとわりついてくる。可愛い妹たちよ、すぐ帰ってくるからね。
タクシーに揺られ、マサイ村を後にした私たちは9時半のバスに乗ることができ、無事に夕方ダルエスサラームへと帰ってくることができた。
もっと長くいたかったけど、母が一緒にマサイ村に行けた。
それだけでもこの旅はよかったなあと思いながら、あっという間に眠りに落ちてしまった。