メイタタのしもべ日記

タンザニアのマサイ村に嫁いだ日本人の日常

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見えないしるし

 


結局ダルエスサラームには6日間滞在した。

ロマのNIDAカードは入手できなかったが、おおよそほかの目的は達成できた。

ほぼ毎日部屋に篭ってパソコンと睨めっこしていたので、観光とかカフェに行くとか、そんなことは一切しなかったのだけれど。

 


ご飯を食べに近所のローカルマーケットに歩いて行くのが唯一の外出だった。

ダルエスサラームの至る所で地面を掘り返し、工事が行われている。

幹線道路で去年、いや一昨年くらいからずっと工事している場所を通りがかったときロマが1人の男性に視線を向けた。

工事現場で働くその男性は、作業服を着て地面を均している。

すると彼は顔をあげてロマを見るなり

「やあ、元気?」

とマサイ語で話し始めた。

しばらくマサイ語で楽しげに話をして、彼はまた作業に戻って行った。

 


ロマも普通の洋服を着ていたし、お互いマサイの身体的特徴(顔に模様がある、下の歯を抜いている)が無かったのにどうして分かったのか。

ロマはまだ、手にはビーズのブレスレット、足にはアンクレットをつけてパイナップルみたいな髪型をしているからマサイだってわかるけど。

彼は作業服を着てヘルメットを被っていたから、私には分からなかった。

「さっきの人、マサイだって分かった?」

「うん。仕事中だから話しかけたら悪いかなーって思ったけど彼から話しかけてくれたから、ちょっと話したよ。」

ロマも彼がマサイだと認識していた。

 


そのあと入ったスーパーマーケット。

私はラーメンを探して店内をウロウロしていたら、ロマが店員さんにマサイ語で話し始めた。

「元気?」

「やあ、元気だよ!」

お互いニコニコ話している。

先ほどの男性と同様に、制服を着て他のタンザニア人と見分けがつかない。

話終わって、スーパーマーケットを後にした。

「さっきの彼、モロゴロの出身なんだって。」

「へー、ダルエスサラームに働きに来てる人多いんやね。」

 


スーパーから泊まっているアパートメントまでの帰り道。

「ムチーナ!ムチーナ!」

と色んな方向から呼ばれる。

意味のないただ呼んでみたものから、バイクタクシーの客引き、露天のおばちゃんの客引きなどなど。

ムチーナとは中国人のことを指すスワヒリ語で、タンザニアには中国人がたくさんいるのでアジア人を見ればムチーナと呼ぶ。

たまにマダムって呼んでくれる人もいるけど、8割ムチーナ、残り1割はムズング(外国人)。

そりゃここから遠く離れたアジアの国々の見分けつかんやろなと思うので、悪意のないムチーナには返事をする事にしている。

 


暑い日に日向でロマを待っていたら、後ろからムチーナと呼ばれて振り返ると、おっちゃん2人が手招きしていた。

「そこ暑いから日陰で座りなさい」

と椅子に座らせてくれて、ロマが来るまで涼しいところで過ごせたり。

 


彼らにとってアジア人を見分けることは難しく、特に東アジアは一緒に見えるんだろうが、アジア人同士ではなんとなく見分けがつく。

街ですれ違うアジア人の顔や髪型の特徴、着ている服や仕草。話すまでに大体の予想がつく。

特に同胞を探すのは簡単で、大体の日本人はお辞儀をする仕草でわかる。

 


アパートメントにもう少しで着く頃に、ロマが道を歩いている人にマサイ語で挨拶している。

「なんでマサイの格好してないのに分かるの?」

「マサイ同士はどんな格好してても分かるよ。タタだってさっきのお店で会った人が日本人だって分かったみたいにね。」

なるほど、同胞同士の細かい特徴や雰囲気を読み取るのはどこの国でも同じなのだ。

私には分からなかったマサイの特徴をロマは敏感に感じ取っている。


そんなわけで、観光もカフェ巡りもなかったけど、ちょっと不思議で、なんだかあたたかい出会いに満ちた6日間だった。