深夜遅くにロマが帰ってきた。
バイクの音で起きた私を、家の外からロマが呼んでいる。
「ちょっと来て」
時刻は午前2時頃だろうか、温かい寝床からのっそり起き上がった私は冷えた玄関のドアを開けた。
ロマが笑顔で立っている、おもむろにダウンジャケットのチャックを下ろすとお腹の辺りに小さな毛玉がちょこんと載っているではないか。
「え、この子どしたん?」
「バーの常連さんの村から貰ってきた。」
まだ乳離れしたばかりくらいの小さな小さな子犬がロマのダウンジャケットから出てきた。
貰ってきたって事はうちの子…?
小学生の男の子が捨て犬を家に連れて帰ってきた時のお母さんの気持ちがちょっと分かった気がした。
「ダニがすごいから洗おう、お湯作ってくれる?」
今から?夜中の2時に??
連れてきてしまったものは仕方ない、子犬に罪はない。
子犬は一言も発さず黙ってロマに抱っこされている。
お湯を作って、洗面器にお水と混ぜて良い温度にしてシャワー室で子犬を洗った。
嫌がるでもなく、じーっとしている子犬の体にはたくさんの傷があり、ノミだけではなく色んな虫がくっ付いていた。
男の子で、焦茶色の被毛に覆われていて足先は靴下を履いているように白く、尻尾の先と首のところが月の形に白くなっている。
一通り洗ってタオルドライして、ミルクを与えて寝室のベッドの下に寝床を作ってあげるとスースー寝息を立てて眠りに落ちた。
きっと疲れたのだろう、こんな夜中にとんだ災難である。

朝起きると、部屋の中でおしっことうんこをしていた。
お腹が空いただろうと、牛乳をあげるとすごい勢いで飲み始めた。小さくてもフルパワー、ダイソンの掃除機みたいな吸引力。
お腹がぽんぽこりんになるまで飲んで、初めて小さな声で「ニー」と鳴いた。
玄関のドアを開けてあげると、庭の隅に走っていっておしっこをした。
えらい、ちゃんと分かってる!
その頃、ネイマとマヌがタイミングよくうちの庭にやってきた。
「タタ!“#*<◎\๑∀〻」
多分、子犬がいる事を私に訴えている。
なぜか2人の手には棒切れが握られており、子犬も本能的にヤバさを感じたのか一目散に逃げ出した。
逃げるものは追いたくなる、2人はキャッキャ歓声をあげながら子犬を追いかけていく。
私は先回りして子犬を抱き上げ、2人に棒を手放させてから子犬を渡した。
優しく撫でて、危険な事はしなかったが見ていないと危なっかしい。
マサイ村で育つ犬は逞しくならざるを得ない。
太陽の光の下で見ても、お腹全体のカサブタと背中のカサブタが目立つ。まだ虫もたくさん付いているので、日が高くなったお昼頃にもう一度洗ってみた。
虫は結構減ったと思うが、皮膚の状態が良くないのでしばらくは毎日お風呂に入れようと思う。
タオルドライの後、日向ぼっこさせているとママオルクチがやって来た。初めましての瞬間、子犬は尻尾を振ってママのお腹に滑り込んだ。
ママの方がおっかなびっくりしているが、しばらくにおいを嗅いで落ち着いた。
ポチもやって来て、お互いずっと知ってましたくらいの感じで遊び始めた。
先住犬たちとも仲良くできそうで良かった。
真夜中に突然我が家に連れて来られた子犬。
名前はまだ無い、元気に育ってくれますように。
