マサイ村の子ども達は学校に通っている。
ジェニファーとマグダレナ(妹④⑤)が同じ学校に通っているので、「最近学校どう?」と聞くと驚きの答えが返ってきた。
「最近は毎日畑ばっかりだよ〜先生がすぐ『畑行くぞ』って言うからさぁ。」
畑???
ママが横で説明してくれる。
「子ども達を労働力にしてるのよ。今日なんかジェニファー2回も沼に水汲みに行かされたらしいわ。朝から夕方までご飯も食べずに、1年生の子達も連れて行かれてるのよ。『しんどいよー』って言っても畑仕事させられる。本当、何のために学校行ってるのやら。」
えええええ?!何それ。
畑で取れた野菜を給食にしてくれるならまだしも、誰の畑???
そりゃママも呆れるわ。
うちの村から学校までは徒歩で1時間かかる。
朝7時に学校に行って、畑仕事させられて、また1時間かけて歩いて帰ってきたら夕方6時。
そこでやっとご飯が食べられるのだ。
マグダレナなんか疲れ果てて、夕方6時のご飯を食べて寝てしまうのなんかしょっちゅうで、細い体がさらに細くなってママが嘆いている。
プライマリースクール7年、その後セカンダリースクールへと進む。
アナとモニカ(妹②③)は隣町のセカンダリースクールに通っている。
ここは畑仕事などさせない(当たり前)。
アナは昨年落第したので、もう一年通う事になっている。
「次落ちたらもうお金払って私立の学校に行くしかないんやで?!ちゃんと勉強して!」
ロマが怒っている。
そういうロマはババ(お義父さん)の方針で学校に通ったことがない。
ロマは7人兄妹中、たった1人の男子だ。
普通男の子を学校に通わせるんじゃないの?と思ったが、ババはたった1人の男子だからこそ牛の世話をさせたかったのか?真相はババに聞くしかない。
「牛の世話嫌じゃなかったけど、学校行ってみたかったなぁ。」
「なんでロマだけ学校やらんかったんかなあ。」
「自分は学校行って、大学まで行ったのにね。」
?!!!
「ババ大学行ったん?!」
「そやで、だから今も政府関係の機関で働いてるやん。」
確かに、ババは月曜〜金曜まで隣の村に働きに行っていて帰ってこない。
大卒だったの?!まさかの新事実。
「バブ(おじいちゃん)の兄弟2人も学校行ってたよ。」
バブの時代に学校行けるって、よっぽど限られた人だけじゃないの?!
「バブのお父さんはさ、学校に通わせたからには偉いリーダーになるか、それこそ大統領になれるんじゃないかって期待したんだけど…2人のうち1人は学校から逃走。もう1人も全然勉強できなかったんだって。バブのお父さんはガッカリしたらしいよ。」
出来は置いといて、まさかその時代に学校に通っていたなんて。
びっくり。
でも、私の目で見る限りマサイが学歴社会だとは思えない。
特に女の子は、最終的にお嫁に行って家事に勤しむイメージしかない。
「アナがもしまた落第して、私立の学校行ってまで学校卒業するのって大事なことなん?」
ロマがキョトンとした顔で言う。
「例えば、嫁いでその先で幸せにずっと暮らせる確証はないやん?夫に先立たれるかもしれんし、何があるか分からん。その時に自分を助けてくれるのは【知識】やと思う。読み書き出来て計算ができて、さらに色んな知識があれば自立して生きていける確率が上がるやん。だから学校を卒業することが目的なんじゃなくて、より多くの知識を得る事が学校に行く目的なんやと思う。」
おぉ、学校に行った事ないのに核心をついてる。
知識は誰にも奪えないし、自立して生きていくには知識はあるに越した事はない。
せっかく学校に通っているのだから、願わくば畑仕事じゃなくて色々な知識を教えてあげてほしいと切に思う。
子ども達の未来が、たくさんの選択肢から選べる世界になったらいいな。