初出勤の日の朝、窓から見える山にはうっすら雪が積もっていて吹き下ろしの風が冷たい朝だった。
当のロマより私が緊張して、いつもなら目が覚めないのに朝4時に目が覚めてドキドキして眠れなかった。ロマはいつも私が出勤する時スヤスヤ寝ているのに、ちゃんと6時半に起きて仕事に行く用意を始めたのでロマも緊張していたのかもしれない。
社長さんに、とにかく想像以上に寒いから寒さ対策をしっかりしてきてねと言われて、超極暖上下、ヒートテックソックス、ニット帽、ワークマンのあったかいズボン、ユニクロウルトラライトダウンジャケットとありったけのトップスを重ねてカイロ背中とお腹の2枚張りでいざ出発。
ちなみに私はそれに「履くこたつ」レッグウォーマーを足して雪だるまみたいな格好で集合場所に向かった。
朝8時、近所のコンビニに社長さんが車で迎えにきてくれて出発。
実はこの前日にも社長さんからメールをもらっていて、手厚くサポートしてもらって当日を迎えた。
「おはようございます!よろしくお願いします!」
社長さんが元気に挨拶してくれてホッとした。
現場に向かう車内で、タンザニアでどんな仕事をしていたとか、向こうのセキュリティの仕事の話などしているうちに現場に到着。片側2車線の4車線道路。
まずは警備の服を着て、幅寄せの仕事に挑戦。
幅寄せとは、工事のため1車線が使えない時に警備の棒を振って車を誘導する仕事。
ロマは背が高くて手が長いので遠くのドライバーも見えやすい。
「わ〜ガタイがいいからしっくりきますね!」
確かに、初出勤とは思えないくらいしっくりきている。本人も満更ではなさそうにはにかんでいる。
朝の澄んだ空気の中、向かってくる対向車を空いている車線に誘導する。
赤信号の時は休めるが、それ以外はずっと車を誘導するので大変だ。
15分もすると手が疲れてきて、腕が下がってきて肘が曲がっていく。
社長さんが「体全体を使って、腕だけで振るとすぐ疲れるから。」とやり方を教えてくれる、それを私は横で通訳する。
そうしているうちに10時になったので10分休憩、近くのコンビニでトイレを借りて帰ったら10分終わった。
「この仕事の基本動作がこれです、これの繰り返しになります。8時間立ちっぱなしでこの動作を繰り返す、これが出来そうだったら続けてもらって、無理なら無理で言ってください。」
ロマに翻訳すると「大丈夫です!」満面の笑みで返事をしている。
ロマにしてみれば一日中家の中でメイタタの世話をしながら日本語の勉強をして私の帰りを待つより、こうして働いて社会との繋がりを感じられる方がいいのだろう。
幅寄せをやっていると社長さんがあったかい飲み物を買ってきてくれて、それが何より沁みた。
お昼ご飯の時間になり、社長さんに「本当のところロマがどう思ってるか聞いておいてください。」と言われたので牛丼を食べながら聞いてみた。
「このお仕事どう?やっていけそう?」
「次の仕事いつ?」
「社長さんが明日も同じところで仕事するから、予定がなかったらきて欲しいって言われたけど明日病院だから断ったよ。」
「そうなの?じゃあ夜勤は?」
「夜勤???」
「うん、昼が無理なら夜働く。」
一点の曇りもないまなこで、次の勤務日を待っているロマ。
お昼休憩が終わって、この会話内容を社長さんに伝えると笑っていた。
「まだ夜勤に入るには色々経験が必要だから、まずは昼間に私と一緒に何回か働いてみて決めよう。独り立ちできてから夜勤ね。」
「わかりました!」
元気よく返事して、午後からの仕事がスタート。
幅寄せの仕事はペアのスタッフと交代して、今度は工事している現場の歩道側の警備につく。
道幅が狭くなっているので通行人や自転車に声をかけて安全を確保する。
「ゆっくり行ってください」
「止まってください、ありがとうございます」
「こんにちは、どうぞこちらです」
「バス停はあちらです」
などの声かけをして、安全に狭い歩道を通ってもらう。
ロマが声をかけると、意外とみんな挨拶を返してくれたり、ありがとうと返事をしてくれたり会釈を返してくれる人が多くて驚いた。
日本人ってあったかいなと横で見ている私も嬉しくなった。
なんと現場で働いている職人さんがあったかい飲み物を差し入れしてくれた。ロマはともかく隣で立ってるだけの私にも「奥さん何がいいですか?旦那さんは甘いのが好きって聞いたからカフェオレ買ってきました。」と飲み物を選ばせてくれた。
遠慮なくほうじ茶をもらって、温かい飲み物が体を温めてくれる。体だけではなく、心もホッと温かくなった。
日が傾き始めた頃に幅寄せの警備に戻る。
私は横で見ているだけだが、ロマはきっと肩も腕も疲れて痛いだろうなと思う。
でも、本人の表情は晴れやかだ。
17時、風は冷たいし日は沈む。こんなに着ているのに足の感覚がなくなるくらいの寒さに耐えながら最後の仕事をやり切る。
片付けは社長さんともう一人のスタッフの方がやってくれて、ロマは最後まで腕を伸ばして幅寄せをしていた。
初出勤、やり切った。
「お疲れ様でした!帰りましょう、乗ってください。」
社長さんが車に乗せてくれて、家まで送ってくれた。
家に入るなりロマが「モモイちゃん、今日はありがと!一緒にいてくれて、とっても心強かった。隣にいてくれるだけで自信が持てたよ。」と労ってくれた。
私はほぼ見てただけで、そんなに感謝されるようなことはしていないのだが、そう言ってくれるロマと一緒に初出勤できてよかった。
社長さんからも労いのメールが来て、次回の仕事のスケジュール調整をした。
お風呂に入って暖まって、ロマの背中と肩をマッサージしながらいい1日だったなと思ったらもう朝だった。
外での立ち仕事は思った以上に疲れるということを学んだ。
ロマが一人でやっていけるようになるまで、こうやって一緒に現場に出て頑張ろう。
一人では乗り越えられないことも二人ならできる、ロマとならそれができる。
春はもうすぐ、新しい新生活の幕開けだ。